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2021/10/03

里山付き別荘の夢

豊かな暮らしとは

みなさんは「豊かな暮らし」というとどんな暮らしを思い浮かべますか?

都会の閑静な高級住宅や超高層のタワーマンション暮らしでしょうか。田舎の自然と人情のあふれるのどかな暮らしでしょうか。

でも、都会暮らしは、どこか窮屈で、人のつながりが希薄で、何よりお金がかかりすぎるし、田舎暮らしの方も、刺激が少なく、人間関係が煩わしくて、社会インフラが不十分で、働くところが少ないように思えて、結局のところどっちもどっちと自分を納得させて現状で我慢という人も多いのではないでしょうか。

私は一石二鳥というか二兎を追う思考が染みついてしまっているせいか、自然や人情が豊かでお金もかからないのに都会にすぐ通えるような暮らしって実現できないのだろうかという思いにずっととらわれて探し求めてきました。

週末の八王子の里山通いももちろんその一環です。ただ、確かに里山に行った当日は夢のような現実に包まれて心地よいのですが、一晩明けるとその余韻は夢のように消え去ってしまい、またすぐにいつもの都会の現実のなかに連れ戻されてしまっていました。

やはり都会と田舎のいいとこどりなんて夢物語なのかなと思えてもいたのですが、コロナ禍の混乱の続く2021年の東京にて、大きな一歩を踏み出す進展がありました。

なんと、当団体の活動に共感いただいたあきる野市菅生の方々が山林だけでなく、ふもとの空き家を格安で提供してくださることになったのです!

その空き家というのは、山林のふもとにあるのどかな集落にあり、目の前が小川で隣との間には塀もない日当たりいい一軒家です。しかも、新宿までたった一時間余りの通勤圏内。ここには本当に豊かな田舎&都会暮らしが実現できる環境があります。

ただ、一つ大きなハードルがありました。空き家というのは会合利用程度なら問題ないのですが、築ウン十年の木造平屋建てでかなりの修繕が必要だったのです。大広間には荷物が散乱し、ふたつの部屋は物置代わり、風呂にいたっては天井ははがれお湯も出ず風呂おけもなく水漏れし、家の周りは草が伸び放題、雨どいは壊れていて外装も剥げかけという状態でした。

でも私にはすぐピンと来るところがありまして、早速、八王子の里山に一緒に通ってきた児童養護施設の施設長に現状の写真を見せつつ相談してみました。すると、さすがは開拓者というべきかこんな返事がいただけたのです。

児童養護施設や里親さん向けの会員制別荘のような感じで、週末のお出かけ拠点に利用できたら楽しいなあと思っています。もう少し施設の運営に見通しが立てば、リフォーム作業にも参加したいです。

児童養護施設の専らの課題はマンパワーの確保ですので、例えば職員研修所として東京都福祉人材センターの体験型プログラムの会場としてお貸しするとか、施設も職員研修に利用するなどアイデアを膨らませるとワクワクしますね。

児童養護施設のための里山付き別荘づくり

この言葉を受けまして、私の心の中でコンセプトはすぐに固まりました。「児童養護施設のための里山付き別荘づくり」です。なんといういい響きでしょう!ここなら気が向いた時にちょっとやってきてお金なんかかけずに他の人にも会うことなく自由に好きなだけ寝泊まりして里山通いの生活が送れるのです!今は荒れた山林、古びた空き家ですが、テレビ番組の「劇的ビフォーアフター」のように生まれ変わらせればいいだけのことです!虐待や貧困などで苦しい思いをしてきた上にコロナ禍でストレスをさらに膨らませる児童養護施設の子どもたちとともに、ここを生きることの楽しさを心の底から感じさせてくれるような場所に変えていくのです!もはや、テレビ番組さえ超えたレベルかもしれませんが!

そうとあらば、私のアクセルはもう完全踏み込み状態、もう一気に前に進むことしか考えられません。早速、当団体内で菅生ハウスリフォームプロジェクトを立ち上げたところ9名の会員が協力に名乗りを上げてくれました。そして、菅生には毎週足しげく通って、地主や関係者とは具体的な話を詰めて、現場確認や下準備を検討して、想像図を描いてみたのです。

もちろん現在は想像図のような状況ではありません。むしろ多くの人にとっては単なる荒れた山林、単なるボロ家にしか見えないはずです。でも、私にはもはや想像図どころか、ここで子どもたちが満面の笑顔と歓声の響かせている様子までがすでにありありと思い浮かんでいるのです!

――夏休みに入った週末、都心の児童養護施設グループホームから小学生から高校生までの子どもたち6人を乗せた車がやってきます。都心からあきる野市菅生までは高速道路がすぐ近くまで来ていてたった1時間余りです。緊急事態宣言が明けても相変わらずのステイホーム続きで久しぶりのお出かけです。もしまた緊急事態宣言がはじまっても問題なしです。だって、誰にも会わずに自分たちの都内の別荘に行くだけですから。

床板がむき出しで物置になっていた部屋は、ハンモックが4つ取り付けられる畳のハンモック部屋に生まれ変わりました。壁は一面は黒板塗料が塗られてチョークでなんでも自由に描けます。壁に落書きしても誰も文句なんか言われません。だって、黒板なんですから。押し入れだったところは秘密の勉強部屋になっていてはしごで登って入ります。
もう一つ物置のようになっていた部屋は寝袋部屋になります。夏の夜には蚊帳をとりつけて室内でキャンプ気分です。

夜になると里山のツタでつくったランプシェードの明かりの下でハンモックに揺られながら、プロジェクターで投影した思い出の写真や家庭用プラネタリウムの星なんか見ながら深い眠りに落ちるのです。
白壁に木々を張り付けた内装の大広間には近くの里山から切り出した大きな一枚板のテーブルがどっかりと置かれています。20人ほどが集まって話をしたり食事をしたりできます。テレビはありませんが明日は何をしようかなんてみんなで盛り上がります。

朽ちていた風呂は補修して、縦横無尽にお湯が噴き出す竹のシャワーがついています。竹の水鉄砲もあります。
味気なかったトイレは漆喰壁にして外光が野花の一輪挿しを照らし出すような心落ち着く空間になりました。

軒先では地元の方が自然農の野菜の無人販売をしています。だから、新鮮な野菜が格安で家の敷地から出ずに買えます。お客さんが来たら八百屋さん気分でいらっしゃいと声をかけましょう。しっかりお手伝いをして野菜があまったら夕食でいただきましょう。いっそのこと、畑仕事から手伝おうかな。

天気のいい日はベランダでバーベキューをしましょう。部屋の外の縁側に腰かけてゆっくりくつろぎましょう。家の前の小川で花を摘んだり小魚を取ったり。夏の日が暮れたらホタルも探しましょう。夜空にはきっと無数の星の光が想像もできないくらいの時空のかなたからいまこの家を照らし出すように輝いているでしょう!

これだけでも十分楽しいに違いありませんが、この別荘の一番の売りは別にあります。なんといっても、「里山付き」というところです。

徒歩10分ほどで里山の入り口に到着します。そこから山道を10分ほどで歩き、さらに斜面に私たちが伐り拓いた道をたどって「オオタカ広場」と呼ぶ拠点に到着します。ここは子どもたちと一緒に伐り拓いて明るく見通しも風通しもよくした尾根の広場です。大きな木々にはハンモックやブランコをかけます。そしていつかはツリーハウスもみんなで手作りしようかな。隣の尾根にはさらに広い「タヌキ広場」があります。近くにタヌキの巣がたくさんあって自動カメラが仕掛けてあります。行き帰りには山菜や工作用の木を採取したり。谷沿いにはかつての谷津田だったところもあって頑張れば田んぼも復活できるかも。ここはトウキョウサンショウウオから、タヌキ、オオタカまで多様な生き物が暮らす豊かな雑木林なのです。

さらに、車で20分もほどで、私たちがこれまで10年余り取り組んできたツリーハウスのある八王子市美山町の里山の方にも行けるのです。ここにはすでにみんなとの開拓の思い出がたくさん詰まっています。

よかったら、里親さんたちにも里山付きの貸別荘を提供しましょう。大変な環境におかれた母子が生活と心を立て直せる緊急一時避難場所としても活用しましょう。施設職員の研修や福利厚生の施設としても使いましょう。

空いている日には、当団体会員やその家族で利用しましょう。自宅代わりの在宅ワークには最適ですし、なんならここから都心への通勤も可能です。利用条件は二つだけ。利用料は自分で決めて募金箱へ。来た時よりもきれいにして帰ること。できれば、これだけでこの家を維持管理していきましょう。

もっと視野を拡げてみるなら、この里山付き別荘づくりというのは、家族と離れて暮らす子どもたちに本物のふるさとを提供するという意味で「児童福祉」、里山に通い続ける拠点ができるという意味で「環境保全」、そして、高齢化の進む過疎地に若い人たちがたくさんやってくるという意味で「地域活性化」という一石三鳥の社会的意義も秘めているのです――


開拓者の思考

話が拡がりすぎてしまったようなので念のため誤解のないようにいいますと、今実際にやっていることは、古びた壁のほこりを払ったり、カビくさい絨毯を干したり、屋根まで届く雑草を刈り払ったりといった地道な作業です。

でも、こっそりお伝えしたいのは、どうしたらいいか当惑するような現実のなかに夢を描いているこの瞬間、そしてその実現に向けて泥臭い作業をしているこの瞬間こそが、一番楽しいということです。これは、実は、15年に渡る里山開拓を通じて私自身がずっと実感してきたことなのです。

このことは、おそらくは、いやきっと間違いなく、開拓者に共通する思考です。開拓者というのは、とても変えられそうもない現実の中に大きな夢を描いて自ら実現していくこと自体に喜びを感じる人たちなのです。

森の哲学者ヘンリー・D・ソローは、大自然のなかに手作りした家での自給自足の暮らしと思索の日々を描いた名著『森の生活』のなかでこんなことを書いています。

――もし人間が自分の住宅を造り、質素に、かつ誠意をもって自分と家族の食を満たしてやるならば、誰だって詩心を呼びさまし、あまねく歌を口ずさむのではないだろうか?

鳥たちが親しい仲になって愛の歌を交わすように。ところが、何と情けない話ではないか!われわれの日常生活はむくどりやかっこうと同じようなことをしているのだ。

この鳥たちは他の鳥が作った巣に卵を産みつけ、ガーガーと騒ぎたてたり、調子はずれのさえずり声をたてるので、旅人を慰めることはない。

われわれは家を建てる喜びを、いつまでも大工にまかせておいてよいのだろうか?――

そう、ソローのいう通りなのです。開拓者にとっては、自分で作ること、そして自分で作ったものを自分で使いこなすこと自体がこの上ない喜びなのです。ソローにしてみれば、家を他の人に建ててもらっている普通の人たちというのは、まるでかっこうなのです。そして、まるでこっけいなのです。一番おいしいところを自ら捨ててしまいながら、一生の多くの時間を費やさねばならない借金を背負わされていることが。

開拓者は、困難な現実を目にしたとき、「やったことがないから」「よく知らないから」「忙しいから」などとできない理由をいろいろと考えたりしません。それでは自分は現実にとらわれすぎて夢を見る力がないといっているに等しいからです。

開拓者は、口先だけでこうすべきだ、ああすべきだというのもいわれるのを嫌います。それは自分で試行錯誤するのが楽しいのであって、自ら試行錯誤せずに結果ばかり求めようとする人の意見など大して参考にならないからです。

開拓者は、面倒な現実から目を背けて自分の見たい世界にだけに浸ろうとはしません。それでは、いつまでたっても、周りの協力は得られず現実を乗り越えることができないからです。

開拓者は、誰かがいいねと評価したり、誰かがやってくれたりするまで待つことはありません。そんな姿勢ではせいぜい市販の果実くらいしか手に入らないということを知っているからです。

もしかしたら、他の人からみると、東京里山開拓団というのは、児童養護施設の子どもたちと荒れた山林に分け入ってツリーハウスを作ったり、里山付きの別荘を作ったり、ふるさとづくりを目指したりと現実離れしたことをやっているように見えるかもしれません。でも、私たちにはそんなふうに見えていません。開拓者にとって現実と夢の間に境目はないのです。現実というのは、今この瞬間、夢を描いて働きかけることによってのみ変えられることを知っているからです。

この困難な現代社会を生き抜いていくのに必要なのは、自ら夢を見て今この瞬間自らできるところから行動することです。そうすることができたら、目をそむけたくなるような現実さえ、魔法のように一瞬にして夢に向かって伸びていく階段の一つと受け止められるようになります。もし現実と夢に隔たりがあると感じているなら、きっとそれは夢をはっきりと描くことなく、過去の現実にとらわれてしまっている証拠です。それを乗り越えるためには、夢を想像する力、夢を具体化する知識と経験、そして何より現実を変えたいという意志を鍛えていく必要があるのです。

里山付き別荘の改装オープン日は2021年7月22日(祝)と決めました。夏休みに入って初めての週末です。まだ完成のめどは立ってはいませんが、できればこの日に子どもたちとともに外壁にペンキを塗って完成させたいと思っています。そして、今年こそは本当に、コロナ禍や過去のいろんなうっぷんなんて軽々と吹き飛ばして、思いっきり里山の大自然を満喫できる夏休みにしたいと強く心に誓っているのです。

               2021年6月 東京里山開拓団 代表 堀崎 茂

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東京里山開拓団の法人活動理念

東京里山開拓団の目指すところ

東京里山開拓団は荒れた山林や空き家といった埋もれた資源を自ら開拓者精神を発揮して活用することを通じて、ふるさとを自ら創り出し、様々な社会課題も楽しみながら乗り越えて、心豊かない社会づくりに貢献することを目指しています。


私たちの活動の3つの柱、①児童養護施設との里山開拓、②ふもとの空き家をDIY再生したふるさとの家「さとごろりん」づくり、③都心の空き家をDIY再生した「まちごろりん」づくりは、超低コストで究極の社会的価値を実現する社会貢献事業のモデルとなりつつあります。


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