「あなたはここにいるだけで素晴らしい」〜子どもたちの居場所を作る「あいむ」代表・藤野さんからのメッセージ〜
ひとの価値観はさまざまで一人一人の個性は素晴らしいものですが、ときにはその違いが社会に受け入れられず辛い思いをすることがあります。それは子どもたちも同じで、自分の居場所を見つけられずに苦しい思いをしている子どもたちや不登校の子どもたちがたくさんいます。「あいむ」は、そのような子どもたちが自分の価値観を大切にして生きていけるような社会を作るために活動しています。
今回はあいむの代表である藤野荘子さんにインタビューを行い、不登校生を中心としたハードルを抱える子供たちの学習支援を行なっている「あいむ」の事業についてや藤野さんの根底にある想いや経験について語っていただきました。
わたしは今年の9月頃からあいむのインターン生として関わらせていただいているのですが、これまでの軌跡や代表藤野さんの想いなどを改めてお聞きしてもっとあいむのこと、藤野さん自身のことを知りたいと思い今回インタビューさせてもらうことになりました。
あいむ設立の背景にある藤野さんの大学生の時の学びや社会人として葛藤した過去の経験とは……?また、あいむ以外にも活動を行なっている藤野さんがどの活動にも共通して持っている想いとは……?
▶プロフィール
藤野荘子さん(1992年生まれ 福岡県出身)
ハードルを抱えた子どもたちの学習支援を行う任意団体「あいむ」代表
立命館アジア太平洋大学に入学後、ソーシャルビジネスを学ぶためグラミン・ユーグレナでインターンをする。新卒で株式会社ネットプロテクションズに入社。うつ病になり、退社するとともに自分はどのような仕事がしたいかを考えるために様々なNPOでボランティアや職員として働いた後、任意団体「あいむ」を立ち上げる。
わたしらしさを大切にする居場所型家庭教師「あいむ」
石上穂伸子(以下、石上):まず「あいむ」がどんな団体なのかを掘りさげていきたいと思います。最初にあいむのビジョンについて教えてください。
藤野荘子(以下、藤野):最近ビジョンが変わったんですよね。
石上:そうなんですね。以前は「誰もが自分らしく生きていける社会」というビジョンを掲げていましたよね。
藤野:そうです。最近見直して、「子どもたちのどんな『わたしらしさ』にも、あたたかな居場所を」というビジョンに変わりました。
これには社会構造として変化させていきたいという意図があります。今までのビジョン(「誰もが自分らしく生きていける社会」)だったらわたしたち自身がわたしらしさを大切にできるようになっていきましょうっていう感じだったけど、個人個人がわたしらしさを大切にするのと同時にわたしらしさを大切にされる社会構造にしていきたいよねという意味で、これに決めました。
「わたしらしさ」っていうのは自分の価値感みたいな意味で、自分の価値感を大切にしたり大切にされたりする社会になってほしい。いい大学に入っていい会社に就職する、みたいな社会の価値感じゃなくて自分の価値観を大切にして、それを軸に判断をする。例えば、会社を選んだり、住む場所を選ぶときにも。各々がそういう価値観を持っていていいと思うし、そのような価値観が尊重される社会であるといいなと思います。
石上:社会の常識とか固定概念に縛られない、というような意味ですか?
藤野:究極をいうと「死にたくならない社会」っていうのを掲げていて、死にたくならない社会ってどういう社会かっていったら社会の価値観に引っ張られすぎず、自分の価値観を軸にして生きていける社会だと思っています。
石上:確かにあいむはひとりひとりの個性を大切にしていますね。特に藤野さんは大切にしていることを積極的に言葉で伝えている印象があります。では次に、あいむのミッションとクレド(行動指針)について教えてください。
藤野:ミッションはまだ言葉としてはちゃんと決めてないんだけど、今のところハードルを抱えている子供たちの学習支援や価値観を醸成する支援ができたらいいなっていうふうに思ってます。
クレドは3つあって、「目の前の人を大切にする」「好きを大切にする」「自然体を大切にする」という3つを大事にしています。
石上:ハードルを抱える子供たちが自分自身の価値観を大切にできるような活動を行なっているのですね。あいむは具体的にどのような事業を行なっていますか?
藤野:今のあいむの主な事業内容は、学校に行っていない子供たちや発達障害を持っている子供たちの家庭教師です。これを「居場所型家庭教師」って言ってるんですけど、子どもたちに勉強を教えたり一緒に遊んだりしています。また、NPO法人CLACKさんと連携して児童養護施設のハードルを抱えている子供たちや母子家庭の子供たちに学習支援をしています。対面とオンラインの両方で学習支援を行なっており、講師は主に大学生です。
石上:「居場所型家庭教師」と言っているようにあいむはただ授業をするだけではなく、生徒さんと信頼関係を築き、学習面以外の生徒さんの悩みや進路に対しても寄り添っているという特徴がありますよね。
「もっと子供たちに寄り添いたい」大学生の時に感じた日本の問題
石上:あいむがどんな団体なのかがわかってきたところで、ここからはあいむの代表である藤野さん自身のこれまでの経験についてお聞きしたいと思います。あいむを設立するにあたって、きっかけとなった藤野さんの経験について教えてください。
藤野:まず立命館アジア太平洋大学に所属しているときにバングラデシュの格差の問題に興味があったので、その問題に取り組みたいなと思ってバングラデシュに1年間行っていました。でも日本に帰ってきたときに、日本の問題の方が深刻だなと思って。日本人の心の貧しさの問題とか、経済的な格差がどんどん広がっていることとか、そういった日本の問題に取り組みたいなと思いました。
また大学で社会階層論という授業を受けた時に、経済的に貧しい家庭は学力が低くなり、学力が低くなってしまうと非正規雇用になってしまい、給与も低くなって雇用も安定しない。親がそうなると、子供も学力も低くなってしまうっていうふうに負のスパイラルに陥ってしまうということを知りました。
そこでこの問題を解決したいなと思いつつ、当時大手の個別指導塾でバイトをしていて。そこは大手の個別塾ということもあり、めちゃくちゃ授業料が高くて経済的に裕福でない家庭にとっては通うのが厳しいだろうなということで自分でもっと安く子供たちに寄り添えるようなことができないかなというふうに思って、今のあいむがあります。
石上:大学生の時に学んだ日本の経済格差や大手個別塾でのバイト経験があいむ設立のきっかけとなったのですね。
大切なのは「社会の価値観に引っ張られすぎないこと」
石上:藤野さんは大学を卒業して新卒で一旦就職されたんですよね?
藤野:そうです。エンジニアとして。
石上:藤野さんのnoteを読ませていただいて、一旦就職された会社を辞めて自分自身も生きづらさと向きあった経験も今のあいむと大きく関わっていると思ったのですが、そこについて教えていただけますか?
藤野:はい。大学を卒業して新卒で2年半ぐらいIT系のベンチャーで働いていました。
わたしはよく「自分の価値感を持ってそう」とか言われるんですけど、そうでもなくって。いままで競争社会で生きてきたし、周りとの競争みたいなのにすごい引っ張られがちなんですよね。
会社に入ってエンジニアとしての能力が求められるけど、わたし文系で入ってエンジニアとしての力とか全くなくってどんどん自己肯定感が落ちていきました。全然会社の役に立ててないなとか社会の役に立ててないなっていうふうに思うことが多くなり、結果としてうつ病になってしまって会社をやめました。
その後福岡に帰ってきたときにお金もないし、社会的な名誉もないし、無職だし、「自分なんて生きる価値ないな」とすごい落ちこんで。そういう経験があって生きづらさをすごく感じていましたね。新卒で入った会社を辞めたときの経験は一番強く残っていて、その時めちゃくちゃつらくて死んでしまった方がいいのではぐらいに思っていました。
そこで生きづらさを感じていたのってなんでだろうと考えたときに、まず社会の価値観に引っ張られすぎていたなっていうのに気づいて。自分の価値観で生きてるんじゃなくて社会の価値観に自分を当てはめて自分の価値を考えていたなっていうふうに思いました。
石上:藤野さんがそんなふうに苦しんでいた時期があったんですね。でもその経験があってこそ、生きづらさを感じて苦しむ原因が社会の価値観に引っ張られていたことにあると気づけたのですね。
藤野:学校へ行ってないからどうとか発達障害だからどうとかって社会の価値観じゃないですか。関わる子供たちには、そこの価値観をいい意味で揺るがすような対話ができる大学生や社会人と繋げて「こういう世界もあるんだよ」みたいなことを見せれればいいなって思っています。
石上:なるほど。特に高校生までは学校と家しかコミュニティがほぼない中で、新しい世界を知るのはなかなか難しいなって思います。その中で新しい世界や新しい価値観を教えてくれる存在は大事ですよね。
「あいむを関わる人みんなの居場所にしたい」
石上:最後にあいむの今後について考えていることを教えてください。
藤野:それでいうと、あいむをインターン生とかプロボノに関わってる方とかの居場所にもしていきたいなっていうふうには思ってますね。
石上:関わってる人みんなの居場所になるって素敵ですね。わたしも実際にあいむに関わる大学生の講師の方やインターン生とお話ししたことがありますが、「あいむは居心地がいい」「あいむに関わっている人はいい人ばかり」と多くの人が言っていてみんなの居場所になりつつあるのだということを実感しました。
あいむ以外で藤野さん自身が将来的にやっていきたいことはありますか?
藤野:自分の価値観を大事にしたいなって思ってもらえるようなコンテンツを作っています。たとえばBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)の話とか黒人差別の問題があるなかで、大学柄、黒人とのハーフの後輩がいたのでこの前のイベントではその人の価値観がどういうふうに変化していったかっていう話をしてもらって。
勉強も大事だけど価値観を醸成することも大事だなっていうふうに思っているので、そういうこともできていったらいいなっていうふうに今いろいろ考え中です。
石上:あらゆる人の価値観を知ることが自分の価値観を考えるきっかけになりますよね。イベントは定期的に開催される予定ですか?
藤野:そうです。イベント以外にも将来的にはフリースクールとかもやっていきたいなあと思っています。
石上:あいむの活動もそれ以外の活動も「自分の価値観」や「自分らしさ」を大切にするというところは共通していますね。わたしはインターン生としてこれからもあいむの活動を応援していきたいと思います。
インタビューは以上です、ありがとうございました!
------------------------------------------------------------------------------
インタビューを通して、藤野さんのあらゆる活動の根底には一貫して「自分の価値観を大切にして生きられる社会を作りたい」という想いがあることがわかりました。わたしもその想いに共感し、インターン生として関わらせていただいています。
社会の中で生きていると周りの環境や周りの人の意見に引っ張られてしまうことがあります。特に関わる人や環境が限られている子供たちは「みんなと同じようにできていない自分はダメなんじゃないか」と苦しくなることがあるかもしれません。
そんな時はあいむに頼ってみてください。あいむはひとりひとりの子供の個性を認め、受け入れ、寄り添っていきます。
あいむは生徒、講師、インターン生など関わる人みんなの居場所になることを目指し、いまあいむに関わっている人たちにも、これからあいむに関わってくれる人たちにも、あいむは「ここにいてもいいんだよ」「あなたはここにいてくれるだけで素晴らしいよ」という想いを持って活動していきたいと思います。
---------------------------------------------------------------------------
<関連情報>
ホームページ▶️https://www.aim-education.com/
Twitter▶️https://twitter.com/KobetsushidoF
Facebook▶️https://www.facebook.com/aim.education.jp/
インターン募集▶︎https://activo.jp/articles/80948
あいむの法人活動理念
[ビジョン]
どんな「わたしらしさ」にも、あたたかい居場所を。
ありのままの自分を生きていくには、安心できる居場所が必要です。"わたしは、わたしのままでいいんだ"。そう思えるようなあたたかい居場所を届けることを、私たちは目指しています。
[クレド(行動指針)]
・目の前の人を大切にする
・自然体を大切にする
・好きを見つける