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2022/04/08

話をして相手を理解する「理中」へ。日中国交正常化50周年にANA相談役、元社長•会長の大橋洋治氏に伺った「私が見る中国」。

(主催:第41回日中学生会議実行委員 今井美佑/山下紗季/徳永潤/勝隆一/ 曹可臻/上野祐香)
2022年3月24日(木)に30名ほどの学生と数名の大学教授をお招きし、イベントを開催致しました。「国交正常化50周年に集う」と題した当イベントは、日中国交正常化50周年を記念し、第41回日中学生会議主催で開催致しました。

第2回のご講演者としてANA相談役、元社長•会長の大橋洋治氏をお招きしました。第41回実行委員でANA本社に伺いました。

大橋氏の講演内容を抜粋してご紹介いたします。

①私と中国
▼中国生まれ:

私が生まれたのは、当時の満州国のジャムスという、ソ連との国境にあり冬はマイナス30度にもなるような極寒の地です。現在の中国東北部の黒竜江省のジャムス市です。
・着の身着のままでとにかくソ連兵から逃げました。1年3か月の逃避行で、私は栄養失調状態で、首も座らないほど弱り、小学校への入学も1年遅れたほどでした。
・ハルピンで隠れて暮らしていた時期、私たちを助けてかくまってくれたのは、以前、私の商店で働いていた中国人の親戚でした。私が何とか命からがら日本に帰ってこれたのは、こうして中国の人に助けられたからです。思えば、それが私の中国との関係の原点です。

▼石川忠雄先生(慶應大)と岡崎嘉平太先生(ANA):

・私は2年になり、ゼミを選ぶ時期になった頃です。私にはどうしても入りたかったゼミがありました。それは当時、中国研究の第一人者であった石川忠雄先生のゼミです。ヨット部をやめて、先生に言われた優の数をそろえて、何とか石川ゼミに入ることができたときは、本当に嬉しかったです。

・私が卒業論文の資料集めで岡崎嘉平太さんを紹介されたときに、岡崎さんは当時は小さな会社であった全日空、いまのANAの社長をしていました。突然やってきた学生の質問にも、岡崎社長が丁寧に答えてくれました。
・岡崎さんは、日銀に入られた後、戦前から中国に駐在し、戦後だけでも100回も訪中され、一貫して中国との関係強化に取り組まれた方です。
・日中国交正常化が実現した後も、事あるごとに中国の皆さんは、岡崎嘉平太さんを大切に扱っていました。中国の古いことわざで、「水を飲むときには井戸を掘った人のことを忘れない」という言葉があります。岡崎さんはいつも中国で「井戸を掘った人」と言われてとても大切にされていました。

▼ANA入社「アジアの時代」:

・私が岡崎先生から言われたこと、それは、「日本は戦争中、アジアを敵にしていた。それではダメだ。これからはアジアの時代だ。アジアと仲良くしないといけない」ということです。
・経済発展のポテンシャルという面だけではなく、世界における日本の地理的条件やこれまでの歴史などを考えてのご発言だったと思います。
・日本と中国は、わずかな距離を隔てた隣人である「一衣帯水」の関係です。日本にとって、中国の労働力や市場は魅力でしたし、中国にとっても日本の先端技術は魅力で、大いにWIN-WINの関係だったと思います。

②最近の中国
▼ここ10年の変化:
・私の実感では、仕事で会う中国政府関係や共産党幹部は、皆さん大変丁寧で低姿勢でした。何か話をしても、「いえいえ、私たち中国はまだまだ後進国です。日本を見習っていますので、色々と教えてください」と言い、日本を立ててくれていました。
・それが、私の実感では、この10年ほどで大きく変わりました。中国側の日本に対する態度が明らかに変わったのです。経済団体などで日本側の代表団が訪中しても、なかなかトップは出てこなくなりました。また、発言内容も以前に比べれば「もう日本に学ぶことはない」という雰囲気をあからさまに感じます。
・ピルズベリーの本にも「中国は自らの力が及ばない時は低姿勢だが、一旦『力で上回った』と確信すると、あからさまな態度を隠さない」と書いております。
・例えば、現在中国の外務大臣の王毅さんという人がいます。テレビで見ているといつも怖い顔をして厳しいことを言っています。しかし、この王毅さんは以前日本大使でした。そのころから私は大変親しく、食事やゴルフもよく行ったものです。
・外務大臣になっても、日本には厳しいことを言いますが、今でも個別に私と会うと、ニコニコして、「大橋会長、お元気ですか」と流ちょうな日本語で私を大変いたわってくれます。テレビでは決して日本語は話しませんが、実際に会うと私を古くからの友人として、昔以上に本当に大事にしてくれています。

▼強くなった中国:
中国は人の入れ替わりが本当に早い。日本を手本にし、日本を大切にしてくれる人たちは、一気にいなくなりました。
強くなった中国、日本を超えたと思っている中国、でやってきた人たちが完全に中心になっている。
・中国は古儒教で大切にすべき価値観として、「忠」と「孝」というものがあります。主君に忠誠を誓う「忠義の忠」と、親孝行の「孝」です。
・これまでの中国は「孝」の国でした。親など目上の人への孝行が最上位の徳目でした。しかし、ここ10年ほどで、中国共産党のガバナンスが非常に強くなってきた影響かと思いますが、最近の中国は「孝」よりも「忠」の方が優先になりつつあるのではと感じています。この「忠」はつまり共産党への「忠義」ということだと思います。

③これからどうあるべきか
▼自分の立ち位置をしっかり:
・まず必要なことは、「日本の立ち位置をはっきりさせること」だと思います。2049年かどうかわかりませんが、いずれ中国は、世界一の経済大国になるとみています。日本は、民主主義を重要視する先進国として、ウクライナ情勢などでもそうであるように、G7諸国と足並みをそろえる必要はあります。
・しかし、判断が思考停止してしまい、単なる「米国追随」一辺倒では日本の国益は守れません。中国への対立一辺倒が、日本の利益に合致するのかどうか。おそらく、課題によって、その対応は変わるべきだと思います。大事なことは、「日本は日本自身にとって何が大事かということを、常に自分自身の頭で考えること」だと思います
・米国は中国との対立を深めています。ファーウェイ問題など、対中経済安全保障も力を入れ輸出規制など、国際的な動きを先導しています。
・しかし、一方で、米国はしたたかに自国の利益を優先させていることはあまり報道されていません。中国への半導体輸出規制を呼びかける一方で、実は昨年前半の米国の中国向け半導体輸出は、中国向けが前年比53.6%増で、金額ベースですでに日本を上回っています。特に米国の半導体メモリの対中輸出は前年同期比のほぼ倍のペースです。
・中国にとっても長年、日本が最大の貿易相手国だったが、現在は米国が最大の相手国になっています。ANAの北京発の貨物便は、お陰様で満載ですが、行先を見ると、日本行以上に、米国向けの貨物が非常に活発なのです。
・こうして米国もしたたかに対中貿易を拡大させている分野もあるということです。日本経済の対中関係の深さは、米国の比ではありません。日本も、馬鹿正直に米国の言うがままに経済上の関係を薄くしようとすると、日本自身の首が締まってしまうことにもなりかねません。
・若い皆さんには、思考停止に陥ることなく、「日本の立ち位置はどうあるべきか」「何が日本の国益になるのか」ということをしっかりと、考えていただきたいと思います。

▼相手の話を徹底して聞く:
・岡崎先生がよく言っていたことは、「何よりも大切なのは、相手の話を徹底的に聞き、とことん議論することだ」ということです。これは会社経営においても、国と国の関係でも同様だと感じています。

▼「警戒」しかし、地理的に離れられない関係:
・私はこれまでお話ししてきたように中国には特別な思い入れがあり、中国人の友人もたくさんいます。しかし、冷静に中国側の話も聞き、日本の立ち位置を考えたときには、「今の中国と仲良くしすぎること」の危険性も感じています。
・私たちは、中国の変化や特徴、注意すべき動きなどを冷静な目でしっかりと見たうえで、それでもやはり仲良くやっていくしかない。ただ、単に「仲良くしないといけないから中国を怒らせないようにする」というスタンスではなく、よく中国のことを理解したうえで、共存し、ともに発展できる道を探していく。
・皆さんには、是非、親中でも反中でもなく、中国に関心をもって、よく中国のことを見て、しっかり話きき、とことん話をして相手を理解する「理中」を目指していただければと思います。

④最後に
・最後に繰り返し皆さんにお願いしたいことは、「相手を理解するためにはよく話を聞くこと」「そして自分の頭で考えること」です。これまでの常識や今までの考え方にこだわらずに、若い皆さんが、これからの日中関係を引っ張って行っていただくことを、心から願ってやみません。

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現在日中学生会議では、夏休みの3週間中国学生と議論するプログラムの参加者を募集しております!ぜひご覧ください。


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日中学生会議

日中学生会議の法人活動理念

『清新』〜対話で紡ぐ次なる関係〜

この理念のそれぞれの言葉には
1.清新:生き生きと挑戦し新たな一歩を踏み出す
2.対話で紡ぐ:対話を大切にして日中学生の相互理解を深める
3.次なる関係: 日中国交正常化50年を節目に新たな段階へ
という想いを込めています。