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2025/06/09

Colabo10年の歩み(2021年発行10周年記念誌より)

・中高時代の自身の経験から

2011年5月に立ち上げたColaboの活動が、今年10周年を迎えました。

Colaboの活動は、私自身の中高時代の経験から、家が安心して過ごせないとき、頼れる大人のいないなか、街やネットをさまよう少女たちが性売買の斡旋業者や買春者からしか声をかけられず、性搾取の被害に遭う現状を何とかしたいと思ったことから始まりました。15歳、16歳だった2005年ごろ、私は家に帰りたくなく、渋谷の街を月25日さまよう生活を送っていました。高校を2年生の夏に中退後は新宿歌舞伎町で過ごすようになりました。街には同じように、居場所や頼れる大人がいない少女たちと出会い、ビルの屋上に段ボールを敷いて一夜を明かすことも度々ありました。そんな私に声をかけて来るのは、買春者か、性搾取の斡旋業者しかいませんでした。私たちの回りでは、性暴力被害や望まない妊娠が毎日のように起きていました。

 

・フィリピンで目にした日本人買春者

その後、私は良い出会いがあって前を向いていけるようになりましたが、18歳ではじめて訪れたフィリピンのマニラで、同世代の少女たちが日本人向けに売られているのを目にしたことも、Colaboの活動を始める大きなきっかけになりました。彼女たちは日本人買春者を相手にするために日本語を勉強し、日本人らしい源氏名を付けられて売られていました。話をすると、本当は学校に行き教員になりたかったけれど、お金がなく、地元では仕事がなく、繁華街に出て来て実家に仕送りしていると聞きました。そして、その店に日本人男性たちが少女たちを買いに来ているのを見たとき、私は「この人たち、知っている」と思いました。渋谷や新宿の街で、毎日「いくら?」「ホテルにいかない?」「お腹空いてない?食事だけでもどう?」「お金欲しいんでしょ?」などと声をかけて来ていた男たちと、同じ目をした男性たちでした。そして、彼らは堂々としていました。女性を自分たちが支えているかのように。そして何より、日本人男性たちがこんなところにまで少女たちを買いに来ているのか!と衝撃でした。

そのとき、私は、これまで自分の周りで起きていたことは、自分だけの問題ではないのかもしれないと思いました。それまでそうした男性たちに声をかけられても、自分が悪いから、自分が家に帰らないから、自分が親の期待に沿えないし、できることが他にないから、自分には性的な価値しかないのだと考えていましたが、もっと大きな問題なのではないかと。そして、こんなに頑張って生きている少女たちに、どうして他の選択肢がないのかと思いました。この現状を変えたい。でも、どうしたらいいかわからない。それが、大学進学への動機になり、明治学院大学の社会学部にAO入試で進学しました。

 

・日本で起きていることは、自己責任?

私が進学できたのは、義務教育を受けることができる環境や、支えてくれる大人に出会えたこと、親族からの金銭的な援助があったことや、無利子の奨学金を借りることができたからです。当時の友人たちや、今Colaboで出会う少女たちの多くは、中卒か高校中退で、小中学校もろくに通えず、暗算も苦手な人も少なくありません。私も16歳くらいの頃は、自分の体験や考えを言葉にすることも、文章を書くこともできませんでした。何を書いたらいいのか以前に、自分の気持ちもわかりませんでした。

そんななか大学人進学した私は、はじめ「すごいところ、雲の上に来てしまった」というような気持ちでいましたが、他の学生たちと関わるなかで、世の中のほとんどの人が、国内の虐待や性搾取の現状を知らないことを知り、衝撃を受けました。たとえば、フィリピンの子どもたちの性搾取については「助けなきゃ」と言っている人たちも、日本にもストリートチルドレンのように路上やネットカフェで生活している子どもたちがいて、買春被害に遭っていることを伝えると「物語の中の話しみたい」「自己責任でしょ」と言われることが多くありました。そうした反応に絶望感を深めつつも、現状を知っているものとして、私がやるしかないと、活動をはじめました。

 

・東北での出会いから、都会だけの問題ではないと知る

今では知る人が少ないかもしれませんが、Colaboは2011年、東日本大震災直後に当時学生だった私がボランティアで入った宮城県石巻市・女川町の避難所をまわるなかで、地元の中高生たちと出会ったことから、彼女たちの地域のために「なにかしたい」という気持ちを一緒に形にしたいと立ち上げたのがはじまりです。東京で育った私はそれまで、自分が経験したことは「都会ならでは」なのかなと思っていましたが、被災直後の宮城で出会った中高生たちと関わるなかで、同じような想いや経験をしているけれど、声をあげることも、繁華街に逃げることもできずにいる中高生がいることを知りました。

 たとえば、避難所から、仮設住宅に入れることが決まった女子高生が「家ではお父さんが暴力をふるうから、ずっと避難所にいたい。そのほうが他の人の目もあるから」と言っていたり、性被害にあったことを地元では誰にも相談できずにいることを打ち明けてくれたりしたこともありました。母親が亡くなったあと知り合いの家で育ち、その後、保護された里親のもとでも虐待を受け、犯罪に巻き込まれ、そこから逃れるために頼った先が性搾取の業者だった高校生との関わりもあり、地方でも、孤立した青少年が一瞬で搾取や暴力に取り込まれていく現状を目の当たりにしました。

 

・性搾取の実態を伝え、変えるため、女の子たちと共に歩んできた10年

2013年に自身の経験をまとめた『難民高校生』を出版し、大学卒業に合わせてColaboを法人化しました。街をさまよう少女たちと出会い、つながるため、声掛けによるアウトリーチ活動をはじめ、自分自身も中高生の時に一番困った『飯と宿』を必要とする子たちに自宅を開放していました。そのなかで、当時は「JKビジネス」という言葉もありませんでしたが、そこで被害に遭っている少女たちとの出会いが多くなり、2014年に『女子高生の裏社会』を出版し、実態を告発しました。

2015年には「東京都青少年問題協議会」委員に就任し、米国国務省の人身取引報告書に調査協力したことから、日本の児童買春やJKビジネスの実態を伝え、国際社会から問題が注目されるようになりました。外国人記者クラブでも日本における児童性搾取の実態を告発したことから、Colaboに対する性売買斡旋業者や買春者などからの攻撃、デマの流布等が強まり、今でも続いています。

女の子たちが、夜でも、いつでも駆け込めて泊まれる場所をつくりたいと、2015年5月にクラウドファンディングで集めたお金をもとに、一時シェルターを開設しました。7月には、愛知県で日本初のJKビジネス規制条例制定ができましたが、「18際未満は雇ってはいけない」という内容で、搾取の構造は変わらないまま事実上の合法化となってしまいました。9月にはNHK・ハートネットTVやクローズアップ現代で活動が特集され、10月には国連の児童買春・児童ポルノ・人身取引に関する特別報告者と面会・調査協力しました。その頃、女の子たち自身が活動するサポートグループが『Tsubomi』として「私たちは『買われた』展」の企画を立ち上げ、準備がはじまりました。

2016年3月には、10代のメンバーと共にタイに研修へ行き、日本人向けの買春カフェで少女たちが売られる現状や、100人以上の日本人買春者が来ている状況を確認し、ストリートチルドレンの青年たちと交流しました。4月には、泊まるところだけでなく、暮らせる場所が必要だと、中長期シェルターをシェアハウスとして3部屋開設しました。8月には「私たちは『買われた』展」を初開催し、11日間で約3千人が来場し、大きな反響を呼び、NHK・ETV特集でも報道されました。

2017年7月には、愛知県から2年も遅れて東京都でJKビジネス規制条例ができました。9月に中長期シェルターを増設し、2軒6部屋になりました。韓国視察を通して、「慰安婦」にされた女性たちとの出会いに励まされ、バスを使った動くユースセンタ・アウトリーチの活動を知ったことから「日本でもバスをやりたい!」と想いを強くし、具体化に向けて準備を始めました。

 

・日本政府も支援の必要性を認め、海外との連帯も力に

2018年7月「厚労省困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」構成員に就任し、現在の女性支援の根拠法になっている売春防止法が差別的で問題の多いものであることを指摘し、これからの包括的な女性支援のあり方について提言しました。10月には、Colaboの活動が厚労省・東京都の「若年被害女性等支援モデル事業」に選定され、10代女性無料のバスカフェ『TsubomiCafe』を開始しました。11月、ソウルにて韓国の10代女性人権センターと共催で、日韓に同じような性搾取の状況があることを伝える私たちは買われた展の合同企画展『オヌル(今日)展~Here I am, Here We are.』を開催。

2019年1月には、一時シェルターを増設し、2物件に。7月、中長期シェルターを増設し、3軒9部屋となりました。Colaboのような活動を全国各地に広げることにも力を入れ始め、全国の支援者向けの韓国研修を開催。11月には、アジアで初めて開催された世界シェルター会議in台湾で「私たちは『買われた』展」展示と講演を行いました。12月には、韓国から活動家と10代の当事者の少女たちを招待し、当事者主体の支援のあり方に関する日韓シンポジウムを開催。Colaboで活動する10代のメンバー4名もスピーチを行いました。

2020年3月、10代のメンバーと共に、実体験に基づき性搾取の実態を告発するYoutube番組「シリーズ キモいおじさん」を開始、大きな反響を呼んでいます。新型コロナウィルスによる外出自粛要請や学校休校により相談が2.5倍に急増したことから、4月からホテルとの緊急宿泊支援連携を開始しました。その頃、バスカフェに視察に来た国会議員団による10代のメンバーに対するセクハラが起き、抗議文を10代のメンバーと作成、公開し、「シリーズ キモいおじさん」でも、相手方からの謝罪文の問題点を徹底解説しました。6月と11月には中長期シェルターを増設し、5軒(15部屋)になりました。

2021年4月には、厚労省・東京都の「若年被害女性等支援事業」が本事業化。5月、新宿歌舞伎町に、活動拠点を新設し、少女たちのおかれた現状を改善し、政策提言を行うための調査研究チーム立ち上げました。9月には、脱性売買相談所の運営に向けた準備を始めています。

 

・支援団体ではなく、当事者運動として

これまで、Colaboでは、『すべての少女が「衣食住」と「関係性」を持ち、困難を抱える少女が暴力を受けたり、搾取に行きつかなくてよい社会』を目指して活動してきました。

Colaboは今、多くの方に「支援団体」と思われていると思いますが、私たちの活動は「当事者運動」であると考えています。当事者たちが、自らの経験から必要だと思うことを自分たちで、当事者以外の人たちも巻き込みながら形にしてきたのがColaboです。家に帰れず、性搾取の中で生き抜いてきた当事者たちが、当事者として必要だと思うことを形にしてきたので、その手前の状況にある女の子たちにとっても選ばれる「支援」になったのだと考えています。

私たちは、出会う女の子たちと「支援する/される」関係ではなく、「共に考え、行動する」ことを大切にしてきました。そして、一人ひとりが社会を変える主体だと考えています。

現在の日本社会では、女性に対する暴力や性暴力が深刻な状況にあります。なかでも、女性の性の商品化や性搾取は深刻ですが、性暴力被害者ですら声をあげられない社会で、性売買・性搾取の被害者は、より声を封じられています。女性に対する暴力や性暴力の根絶、被害者救済に向けた活動は広まりを見せつつありますが、性搾取被害の根絶、被害者の尊厳や権利回復のための活動はないに等しい状況です。

韓国では、2000年と2002年に性売買女性たちが業者に閉じ込められていたビルで火災が起き、女性たちが亡くなったことから、これ以上このようなことを繰り返したくないと女性運動が起こり、2004年に性売買防止法が制定されました。日本でも、2001年に歌舞伎町のビル火災で性売買女性が亡くなったが、韓国のような運動は起きませんでした。それは、女性が抑圧され、性売買が当然のものとして容認され続けてきた日本社会の姿だと考えています。

Colaboでは、この10年間、10代の少女たちと共に声をあげ、JKビジネスの実態の告発や、若年女性支援や法整備の必要性を訴え、市民の認識や制度を変える力となってきました。自己責任論と社会の無理解によって「助けて」と言えない状況にある少女に出会うためのアウトリーチや、シェルターの運営、性搾取被害や福祉の機能不全の実態を伝える活動などを、10代を中心とする当事者とともに行ってきました。

そうした少女たちと同じような状況にありながら、支援がなく10年、15年と性搾取・性売買の現場から抜け出すことができずに生きてきた性売買経験女性たちが、Colaboの活動に賛同し、繋がりはじめています。

 

・これからのColabo―性売買経験当事者と共に

コロナ禍で女性の貧困や自殺がこれまでにないほど深刻になっていますが、芸能人がラジオでやむを得ない事情で女性が性風俗で働くことを待ち望むような発言をするなど、性搾取を容認し、女性を性的に消費し、暴力にさらすことを楽しみにするような発言が堂々と言えてしまう社会を変えることは緊急の課題です。

これからのColaboは、10年の時を経て繋がり始めた性売買経験女性たちと共に、10代の頃にColaboのような活動に出会えないまま今も性売買の現場にいる女性たちを支える取り組みを考えていきたいと考えています。

私たちが10年間活動を継続し、女の子たちの生活を支え、社会を変える力となることができたのは、市民の方の理解や協力、たくさんの具体的なご支援があったからです。特に、2018年から行政の委託事業を受けることになってから、行政からの圧力に屈せず、言うべきことは言い続けるために、市民の方からのご寄付をベースに活動することの大切さを強く実感しました。改めて、ここに感謝をお伝えします。これからも想いを共有し、具体的なご支援や行動をもって、現状を変えるために多くの方が活動を共にしてくださることを願い、信じています。

 2021年9月 一般社団法人Colabo 仁藤夢乃

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一般社団法人Colabo

一般社団法人Colaboの法人活動理念

Colaboは、すべての少女が 「衣食住」と「関係性」を持ち、困難を抱える少女が搾取や暴力に行き着かなくてよい社会を目指して活動しています。